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東京地方裁判所 昭和63年(行ウ)5号 判決 1989年7月26日

原告

株式会社三社会館

右代表者代表取締役

木村昭光

右訴訟代理人弁護士

小林辰重

吉田康

右訴訟復代理人弁護士

石川善一

被告

浅草税務署長

江原均

右訴訟代理人弁護士

杉本秀夫

右指定代理人

石黒邦雄

茂木昇

島田明

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六二年五月一八日付けでした原告の昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度の法人税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

2  被告が昭和六一年一二月二六日付けでした原告の昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度の法人税の更正(ただし、昭和六二年一二月二六日付けの減額再更正により減額された後のもの)のうち所得金額五二九万七二二三円、納付すべき税額六六五万九六〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、同日付けの減額再更正に伴う過少申告加算税賦課決定により減額された後のもの)を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  本案前の答弁

1  請求の趣旨1に係る訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  本案に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  更正の請求に対する通知処分の取消請求

(一) 原告の昭和六〇年四月一日から昭和六一年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告(以下「本件申告」という。)及びこれに対する更正は、別紙課税処分経緯表番号1、2のとおりであり、その後、右更正について同表番号9の減額再更正がされた(以下、右の減額再更正により減額された後の同表番号2の更正を「本件更正」という。)。

(二) 原告は、本件申告について別紙課税処分経緯表番号3のとおり更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をしたところ、被告は、同表番号5のとおり本件更正請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をしたので、原告は、同表番号8のとおり国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、その後三か月を経過するも裁決がない。

(三) 本件申告には、以下のとおり国税通則法(以下「通則法」という。)二三条一項一号に該当する事由がある。

(1) 原告は、昭和六〇年七月三一日、その所有する事業用資産であって、所有期間が一〇年を超える別紙物件目録一記載の不動産(以下「本件譲渡資産」という。)を四億五九〇〇万円で売却し、同年八月二〇日、事業用資産として同目録二記載の不動産(以下「本件買換資産」といい、そのうち1記載の各専有部分の建物を併せて「本件建物」、2記載の各土地持分(本件建物の敷地の共有部分)を併せて「本件土地持分」という。)を二億五二〇〇万円で買い受けた。

(2) 原告は、本件譲渡資産の譲渡利益のうち本件買換資産の取得に係るものについて課税の繰延べを得るため、租税特別措置法(以下「措置法」という。)に定める特定の資産の買換えの場合等の課税の特例規定の適用を受けることを決め、本件譲渡資産が措置法(昭和六一年法律第一三号による改正前のもの。以下同じ。)六五条の七第一項表一五号上欄に規定する資産に該当し、本件買換資産が同表一五号下欄イに規定する減価償却資産に該当するものとして、本件事業年度の決算において、本件買換資産の帳簿価額(取得価額)を本件建物に係る部分一億〇二八〇万円と本件土地持分に係る部分一億四九二〇万円とに按分した上、同項所定の圧縮限度額を本件建物に係る分を九二五二万円、本件土地持分に係る分を一億三四二八万円と計算し、右の圧縮限度額合計二億二六八〇万円を本件買換資産の帳簿価額から減額し、減額した金額に相当する金額を損金に算入する経理処理(以下「本件圧縮記帳経理」という。)をし、右の経理処理をした計算書類につき昭和六一年五月二八日に開催された定時株主総会(以下「本件定時株主総会」という。)の承認決議を経て、これに基づき本件申告をした。

(3) しかし、本件更正は、本件土地持分につきそれが措置法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する減価償却資産に該当しないから、同項による課税の特例の適用はないとしているところ、そうであれば、本件申告における課税標準若しくは税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていないことになり、また、右の点につき本件更正を受けた結果、納付すべき税額が過大になったことになる。

(4) そこで、原告は、本件申告後本件事業年度の法人税の法定申告期限から一年以内に、損金に算入した本件土地持分に係る圧縮額につきいったん土地勘定に戻した上、それと同額の措置法六五条の八第一項所定の特別勘定を設定し、その金額を損金に算入する経理処理(以下「本件特別勘定経理」という。)に改め、本件特別勘定経理により修正した後の本件事業年度の計算書類につき昭和六二年一月一日に開催された臨時株主総会(以下「本件臨時株主総会」という。)の承認決議を経て、これに基づき本件更正請求をした。

なお、原告は、措置法六五条の八第一項に規定する取得指定期間内である昭和六一年一〇月一日に、同法六五条の七第一項表一五号下欄に規定する既存市街地等以外の地域内にある千葉市新宿に所在する土地(宅地)を二億二三九一万二〇〇〇円で買い受け、その後一年以内に事業の用に供している。

(四) 仮に右(三)の主張が認められないとしても、原告は、以下のとおり被告の誤った教示に基づいて本件申告をしたのであるから、被告が、右の誤った教示による本件申告の誤りを修正するためにされた本件更正請求につき理由がないとすることは信義則に反し許されない。

(1) 原告の代表取締役木村昭光(以下「原告代表者」という。)は、本件申告に先立ち、昭和六一年五月二八日ころ、本件譲渡資産の譲渡利益に関し措置法六五条の七第一項による課税の繰延べができるかどうかについて、浅草税務署へ税務相談に行き、同署の職員である熊谷国税調査官(以下「熊谷調査官」という。)及び高橋特別国税調査官(以下熊谷調査官と併せて「熊谷調査官ら」という。)に対し、同項の適用を受けるに当たり確定申告時に提出することになっている添附明細書であって、法人税法施行規則三四条二項において同規則別表一三(五)として定められている書式の用紙に、本件譲渡資産及び本件買換資産に関する事項を記載したもの(以下「本件資料」という。)並びに本件譲渡資産及び本件買換資産の各売買の細目をメモした書面を示し、同項の適用の可否及び本件建物と本件土地持分との圧縮額の按分の適否について質問した。

(2) 税務署職員は納税者に対して税務相談を行う法律上の義務はないものの、税務相談は申告納税制度を補完し、その適正な申告を図るために欠くことのできない事務であり、また、被告の課税事務の遂行のために必要な関連事務であるから、税務署職員が行う税務相談は納税者に対する関係で事務管理となるものであり、事務管理者がその事務管理をするにつき納税者の意思を知るとき又は推知することができるときは、納税者の意思に従って税務相談に当たることを要する。原告代表者が熊谷調査官らに提示した本件資料は、特定資産の買換えにより取得した資産の圧縮額等の損金算入をする場合に納税申告書に添付する法定の書面を利用したものであり、また、その中には本件買換資産の各圧縮額の計算過程や本件買換資産が墨田区に所在するものである旨の記載がされていたのであるから、熊谷調査官らは、仮に原告代表者から具体的な説明を受けなかったとしても、本件圧縮記帳経理のうち本件土地持分の圧縮額分について措置法六五条の七第一項の適用がないという取扱いであれば、これについて課税の特例を受けるためには同法六五条の八第一項に規定する特別勘定の設定をしなければならないことを指摘すべきであった。しかるに、熊谷調査官らは、右の指摘をしないばかりか、本件譲渡資産の売却状況や本件買換資産の購入経過を聴取し、他の部署で更に確認を取った上で、本件買換資産全部につき同法六五条の七第一項の適用がある旨回答をした。

(3) 原告は、熊谷調査官らの右回答に従って、昭和六一年五月二八日、本件圧縮記帳経理をした計算書類を本件定時株主総会に提出し、その承認決議を経た上、本件資料をそのまま添付明細書として使用して本件申告をしたのであるが、熊谷調査官らから、誤った回答がないか、あるいは右(2)で述べた指摘があれば、本件申告における課税の特例規定の選択を誤ることがなかったのであるから、被告が右の誤った教示に基づく本件申告の誤りの是正を認めないのは、信義則に反する。

(五) よって、原告は、本件通知処分の取消しを求める。

2  更正及び過少申告加算税賦課決定の取消請求

(一) 本件申告は、これに対する更正及び過少申告加算税賦課決定並びにこれに対する不服申立ての経緯は、別紙課税処分経緯表の番号1、2、4、6及び7のとおりであり、同表番号7の審査請求に対しては、審査請求後三か月を経過するも裁決がない。なお、その後、同表番号9のとおり、同表番号2の更正及び過少申告加算税賦課決定につき減額再更正及びこれに伴う過少申告加算税賦課決定がされた(以下、右の減額再更正に伴う過少申告加算税賦課決定により減額された過少申告加算税賦課決定を「本件賦課決定」といい、本件更正と併せて「本件更正等処分」という。)。

(二) しかし、本件更正は、原告の本件事業年度の法人税の課税標準及び税額を過大に認定した違法があり、本件更正に伴う本件賦課決定も違法である。

(三) よって、原告は、本件更正等処分の取消しを求める。

二  本案前の主張

本件通知処分の取消しを求める訴えは、本件申告により過大に申告した税額の減額を求めるものではなく、本件更正により増加した税額を本件申告における税額まで減額することを求めるものであって、本件更正等処分の取消しを求める訴えとその求める趣旨が同じであるから、本件更正等処分の取消しと重ねて本件通知処分の取消しを求める訴えの利益はない。

三  本案前の主張に対する認否

争う。本件通知処分と本件更正等処分は別個独立の処分であって、それぞれについて取消訴訟を提起し得るものであり、また、それぞれの取消しを求める請求原因は異なるので、本件各請求はいずれも訴えの利益がある。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1について

(一) (一)、(二)の各事実は認める。

(二) (三)の冒頭部分は争い、(1)、(2)の各事実は認め、(3)は、本件更正が、本件土地持分につきそれが措置法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する減価償却資産に該当しないから、同項による課税の特例の適用がないとしていることは認め、主張は争い、(4)は、原告が本件更正請求をしたことは認め、その余の事実は知らない。

(三) (四)の冒頭部分は争い、(1)ないし(3)は、原告代表者が昭和六一年五月二八日ころ、浅草税務署に税務相談に来たこと、右税務相談において熊谷調査官らが応対したことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。

2  請求原因2について

(一)の事実は認め、(二)は争う。

五  被告の主張

1  本件通知処分の取消請求

(一) 請求原因1の(三)について

(1) 措置法六五条の八第一項は、法人が同項所定の経理処理をして所得金額の計算をするか、あるいは同項の規定を適用せずに所得金額の計算をするかの選択を、その事業年度の決算を確定させる時における当該法人の自由な意思に委ねており、当該法人が同項の規定の適用を選択した場合には、当該法人の意思の決定結果をその事業年度の確定した決算において明らかにすることを要求している。

しかるに、原告は、本件事業年度の確定した決算において、本件土地持分につき同項の適用を選択せず、同項所定の経理処理である特別勘定を設定していないのであるから、もはや本件土地持分に係る圧縮額に相当する金額につき同項の適用を受けることはできない。

なお、原告は、本件定時株主総会において承認決議を経た本件事業年度の計算書類につき、その後本件特別勘定経理をして修正し、これについて本件臨時株主総会において承認決議を経たから、本件事業年度の確定した決算は本件臨時株主総会の承認決議を経たものであると主張するが、税務上、商法の規定による株主総会の決議無効若しくは取消しの確定判決に基づく変更又は行政官庁の命令等による変更があった場合等、当該法人の意思に基づかない外部的事情により変更された場合以外には、確定した決算の変更は認められない。そして、原告が本件特別勘定経理をして計算書類を修正したのは専ら原告の内部事情に基づくものであるから、これによって本件定時株主総会の承認決議を経て確定した決算を変更することはできないので、原告の右主張は失当である。

(2) 更正の請求が認められる要件として通則法二三条一項一号に規定されている「当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があった場合には、当該更正後の税額)が過大であるとき」とは、納税申告書に記載した税額が過大であるときをいい、括弧書の部分は、更正の請求をすることができる期間が法定申告期限から一年に改正された際に規定されたもので、更正の請求期間内に更正があり、その更正が過大に申告した申告の誤りに気付かず、他の不足部分を加算してしまった場合に対する措置として、更正に対する不服申立期間経過後であっても、なお更正の請求期間内であれば、過大な申告部分に対応する更正額の減額再更正を求めることを認めたものである。しかるに、本件更正請求は、本件申告で過大に申告した税額ではなく、本件更正により増加した税額を、本件申告における税額まで減額を求めるというものであるから、通則法二三条一項一号の要件を満たさない。

(二) 請求原因1の(四)について

熊谷調査官らが原告代表者から相談を受けた事項は、特定資産の買換えの場合の課税の特例が受けられるという前提の下に、本件資料に記入済みの買換資産の取得価額等による計算でよいかどうかを検討してほしいということのみであり、本件資料及びこれと併せて示されたメモには、譲渡資産及び買換資産ともその所在地の記載はなく、また、原告代表者からも本件譲渡資産と本件買換資産との買換えに関する経緯等の説明は一切なかった。熊谷調査官らの応答は、原告代表者が申し出たとおりに、本件資料に記載のあった買換資産の各取得価額等の按分計算についてだけ検討したところ、原告がした按分計算は妥当ではないと判断されたので、熊谷調査官が採用した方法で計算した買換資産の各取得価額を本件資料に書き入れ、その結果を原告代表者に伝えたにとどまるものであった。

税務相談は、税務当局が税務行政の円滑な推進という行政目的を達成するために、税法の解釈及び適用、申告及び申請の手続などにつき納税者等の相談に応ずることにより、納税者等にこれらの知識を供与するものであるが、その相談の前提事実については、税務調査を行い得ない時期における税務相談の場合には、質問検査権の行使を予定していないものであるから、専ら納税者等が提出した資料ないし申述した内容に依存せざるを得ない。熊谷調査官らが原告代表者から受けた税務相談は、右の場合に該当し、かつ、計算内容の検討についてだけ相談を受けたものであるから、本件資料に記載のあった買換資産が措置法六五条の七第一項の適用があるものかどうかについて熊谷調査官らが進んで判断しなかったことには何ら非難されるべき点はなく、また、誤った指導をしたということもできない。

仮に熊谷調査官らに原告代表者から申出があった以外の事項についても指導等をする義務があり、かつ、熊谷調査官らが右義務を怠ったとしても、本件更正請求が信義則の法理の適用により理由があるものとなり得るためには、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存在することが必要であるところ、熊谷調査官らの応答は、本件資料に記載のあった買換資産のうちの土地持分が措置法六五条の七第一項所定の買換資産に該当する旨の公的見解を表示したものではなく、したがって、原告が右の内容の見解を信頼し、それに基づき本件申告をしたものではないこと、また、熊谷調査官らの前記応答行為から原告が本件土地持分について同項の適用があると思い込み、本件申告をしたとしても、この場合には納税者間の平等、公平を犠牲にしてまで原告を保護すべきいわれはないことからすると、信義則の法理を適用して本件更正請求を理由があるものとすべき特別の事情は全く存在しない。

2  本件更正等処分の取消請求

(一) 原告の本件事業年度の所得金額

(1) 申告所得金額

五二九万七二二三円

(2) 加算項目

本件土地持分圧縮額の損金算入否認額

一億三四二八万〇〇〇〇円

ア 原告は、請求原因1の(三)の(1)のとおり本件譲渡資産を売却し、本件買換資産を買い受けた。

イ 原告は、請求原因1の(三)の(2)のとおり本件申告をした。

ウ しかし、措置法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する買換資産は減価償却資産に限られているところ、本件土地持分は減価償却資産に該当せず、同項により本件土地持分圧縮額一億三四二八万円を損金に算入することはできないので、右金額は所得金額に加算されるものである。

(3) 減算項目

ア 受取手数料減算額

八〇〇万〇〇〇〇円

イ 支払利息認容額

一一六九万二八四七円

(4) 右(1)の金額に(2)の金額を加算し、(3)の金額を差し引いた金額一億一九八八万四三七六円が、原告の本件事業年度の所得金額である。

(二) 本件事業年度の課税土地譲渡利益金額

三七五八万八〇〇〇円

(三) 本件事業年度に係る課税留保金額

七九三万〇〇〇〇円

(四) 本件更正の適法性

原告の本件事業年度の所得金額、課税土地譲渡利益金額、課税留保金額は右(一)ないし(三)のとおりであり、右各金額に基づき本件事業年度の差引所得に対する法人税の額を算出すると、別紙法人税額算出表の記載のとおり五五六二万四九〇〇円となるから、これと同額の本件更正は適法である。

(五) 本件賦課決定の適法性

原告の本件事業年度の法人税の額は(四)のとおり五五六二万四九〇〇円であるところ、原告は本件申告において右税額を六六五万九六〇〇円と過少に申告したものであるから、通則法六五条(ただし、昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下同じ。)の規定に基づき、本件更正により原告が新たに納付すべき税額四八九六万五三〇〇円(本件更正における法人税額五五六二万四九〇〇円から本件申告における法人税額六六五万九六〇〇円を差し引いた金額)について算出される過少申告加算税の額は四三八万二五〇〇円となるから、これと同額の本件賦課決定は適法である。

六  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1はすべて争う。

2  同2について

(一) (一)の(1)、同(2)のア及びイ、同(3)の各事実は認め、同(2)のウ、同(4)は争う。

(二) (二)の事実は認める。

(三) (三)は、被告が主張する原告の本件事業年度の所得金額及び課税土地譲渡利益金額を前提とした場合、課税留保金額が七九三万円であることは認める。

(四) (四)は争う。

(五) (五)は、原告の本件事業年度の法人税額が五五六二万四九〇〇円であるとした場合、原告が新たに納付すべきこととなる税額が四八九六万五三〇〇円であり、これについて通則法六五条に基づき算出される過少申告加算税の額が四三八万二五〇〇円であることは認め、主張は争う。

七  原告の反論

1  本件通知処分の取消請求

(一) 被告の主張1の(一)の(1)について

決算が確定するためには、株主総会の有効な承認決議を経なければならないが、本件定時株主総会において承認決議を経た本件事業年度の計算書類の内容には、措置法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する減価償却資産に該当しない本件土地持分を同資産に該当するものとして本件圧縮記帳経理をした法令違反があることになるところ、法令に違反する内容の計算書類の承認決議は無効であるから、本件定時株主総会の承認決議によっては本件事業年度の決算は確定しておらず、その後、内容を修正して法令に従ったものにした計算書類に対する本件臨時株主総会の承認決議によって初めて本件事業年度の決算が確定したのである。

また、税務上、法人が確定した決算に基づき申告した課税標準及び税額をその後に変更することはできないとしても、法人が決算に係る計算書類の内容を修正、訂正、変更をすることは自由になし得るというべきである。本件では、本件臨時株主総会において承認決議を経て確定した決算に基づく課税標準及び税額と、本件申告におけるそれとは全く同じであるから、税務上も何ら問題は生じない。仮に確定した決算の変更が許されるのは外部的事情による場合に限られるとしても、本件定時株主総会において承認決議を経た計算書類は、請求原因1の(四)のとおり、被告の誤った教示に基づくものであって、その内容は法令に違反するものであるから、本件臨時株主総会における修正計算書類の承認決議は、被告が主張する外部的事情により決算を変更した場合に当たる。

(二) 被告の主張1の(一)の(2)について

更正があった場合の税額の過大について、通則法二三条一項一号の規定上、被告が主張するような限定はなく、確定申告であれその後にされる更正であれ、これによって定まる税額が、確定申告における課税標準若しくは税額の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより過大になっていれば足りるのである。

2  本件更正等処分の取消請求(被告の主張2の(一)の(2)について)

(一) 事実誤認の違法

被告は、本件更正の理由として、本件買換資産に関して「貴社は当期申告において租税特別措置法第六五条の七に基づき墨田区両国四丁目一番二のマンションの土地及び建物を圧縮記帳されましたが、土地部分については同条一項のいかなる買換資産にも該当しません。」として、土地部分の圧縮額の損金算入を否認したが、右にいう「土地部分」は土地共有持分とは異なる本件建物の敷地のうちの具体的な一部分を指すものであるところ、原告は当該土地部分を取得していないので、当該土地部分を買換資産であるとしていた本件更正には、事実を誤認した違法がある。

(二) 法律の解釈、適用の誤りの違法

仮に、右「土地部分」が土地共有持分を指すものであるとしても、本件買換資産は建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)の適用を受けるものであり、本件建物は同法でいう専有部分に、本件土地持分は同法でいう敷地利用権に当たるところ、同法によれば、専有部分を所有するための敷地利用権は専有部分と分離して処分することが禁止され(同法二二条)、不可分性が規定されているとともに、敷地利用権が敷地の所有権である場合は敷地に対する持分で表示されるが、その持分割合は専有部分の床面積の割合により形式的に定まるものであって、敷地についての具体的な持分割合ではなく、右持分については民法二五五条の規定が適用されない(区分所有法二四条)と規定されているように、通常の土地共有部分とは性質を異にしている。本件買換資産は昭和四八年一〇月に建築されたものであるので、本件土地持分について昭和五八年法律第五一号による改正前の不動産登記法に基づき土地登記簿に共有部分の登記がされているが、改正後の不動産登記法では、専有部分についての建物登記簿に敷地利用権が記載される一方、敷地利用権についての土地登記簿には持分の表示はされず、その甲区欄には敷地権の対象となる一棟の建物を表示することになっており、また、専有部分のみの所有権移転登記ができないこととされているように、専有部分と敷地利用権の不可分性が不動産登記法上も明らかにされている。さらに、実際のマンションの売買取引においても、専有部分と敷地利用権は一般的に一体のものとして取引されており、別個のものであるとの認識は持たれていない。このように、専有部分と一体としてしか扱えない敷地利用権である土地共有持分は、通常の土地共有持分と異なり、専有部分と離れて存在するものではなく、専有部分と不可分一体をなすものであるから、その経済的意義及び実質的性質に照らし、税法の適用においては専有部分と一体をなす資産であると解すべきである。そうすると、本件土地持分は本件建物と一体をなす措置法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する減価償却資産として扱われるべきものであるから、本件土地持分が同表一五号下欄イの減価償却資産に当たらないとしてその圧縮額の損金算入を認めなかった本件更正には、法律の解釈、適用を誤った違法がある。

(三) 本件申告の無効

仮に被告が主張するように、本件土地持分が措置法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する減価償却資産に該当せず、本件土地持分に係る圧縮額を損金に算入することができないのであれば、本件申告は以下のとおり無効であるから、本件申告による原告の本件事業年度の法人税に関する法律関係は生じていないところ、存在しない右法律関係に対してした本件更正も無効であり、また、本件更正に基づく本件賦課決定も無効である。

(1) 本件申告は、本件定時株主総会の承認決議を経た決算に基づくものであるが、右承認決議に付された計算書類は本件土地持分に係る圧縮額を損金に算入するという内容のものであるから、右承認決議は、その計算書類の内容に重大な法令違反があることになるので無効である。したがって、原告の本件事業年度の決算は右承認決議によっては確定しないことになるから、本件申告は、確定した決算に基づいたものではないことになるので無効である。

(2) また、本件土地持分の取得価額に相当する本件譲渡資産の譲渡に係る対価について課税の繰延べを受けるためには措置法六五条の八第一項によらねばならないことになるところ、原告は本件土地持分が同法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する減価償却資産であるとして同項による課税の特例に基づき本件申告をしたのであるから、本件申告には課税の特例の規定の選択に錯誤があることになるが、右錯誤は請求原因1の(四)のとおり被告の誤った教示によるものであって、その錯誤は本件申告の要素に係るものであり、かつ、本件申告において提出した納税申告書上明白であるので、本件申告は無効である。

(四) 信義則に反する違法

本件申告は、請求原因1の(四)のとおり本件土地持分につき措置法六五条の七第一項の適用があるとの被告の教示に基づいたものであるところ、右教示に係る本件土地持分の圧縮額の損金算入を否認することは信義則に反し許されないから、本件更正は違法である。

八  原告の反論に対する認否及び被告の再反論

1  原告の反論1は争う。

2  同2について

(一) (一)は、本件更正の理由が原告主張のとおりであることは認めるが、主張は争う。

(二) (二)は、本件買換資産が昭和四八年一〇月に建築されたものであること、本件土地持分について土地登記簿に共有持分の登記がされていることは認め、主張は争う。

(三) (三)は、本件申告が本件定時株主総会の承認決議を経た決算に基づくものであることは認め、主張は争う。

(再反論)

原告の本件事業年度の決算は、本件定時株主総会において適法に計算書類の承認決議を経ており、同承認決議により確定している。

仮に、本件事業年度の決算が確定しておらず、これに基づく本件申告が無効であるとするならば、本件更正がされた当時、原告は本件事業年度の法人税の確定申告をしていなかったことになり、この状態においてされた本件更正は、通則法二五条所定の決定としての効力を持つことになるから、結局、本件更正は適法かつ有効である。

(四) (四)は争う。これに対する再反論は、被告の主張1の(二)と同じである。

第三  証拠<省略>

理由

第一本件通知処分の取消請求

一本案前の主張について

被告は、本件通知処分の取消しを求める訴えは、本件更正等処分の取消しを求める訴えとその求める趣旨が同じであるから、後者の取消しに重ねて前者の取消しを求める訴えの利益がない旨主張するので、まずこの点につき検討する。

被告の右主張は、本件通知処分と本件更正等処分の各取消訴訟で原告が勝訴した場合に受ける利益が同一であることを理由に、本件通知処分の取消しの訴えの利益がないというものであると解されるところ、本件通知処分及び本件更正等処分の経緯は、請求原因1、2の各(一)のとおりであることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実によれば、本件通知処分及び本件更正等処分はいずれも原告の本件事業年度の法人税に関する処分であって、右各処分が原告の主張どおり取り消された場合に原告が受ける利益は、最終的にはいずれも原告の本件事業年度の法人税の額が六六五万九六〇〇円になるというものであるから、この点に限ってみると、原告にとっては右各処分のいずれか一方の取消しが認められれば充分に目的を達成するということができる。しかし、右各処分は、一方が他方を吸収する関係にあるものではなく、それぞれ別個の処分であって、かつ、それぞれについて取消訴訟を提起することは妨げられていないこと、本件通知処分の取消請求における処分の違法事由と本件更正等処分の取消請求におけるそれとは、内容を同じくするものもあるが、すべてが重複したものではなく、それぞれについて固有の違法事由が主張されていることからすると、右各処分の取消しの訴えはそれぞれにつき取消しを求める固有の利益が認められるといわなくてはならない。そうすると、勝訴した場合に原告が受ける利益が本件更正等処分の取消しを求める訴えと同一であるということだけから、本件通知処分の取消しを求める訴えにつき訴えの利益がないということはできない。

よって、被告の右主張は採用できない。

二本案について

1  請求原因1の(一)、(二)の各事実は、当事者間に争いがない。

2  本件更正請求の理由(通則法二三条一項一号の該当事由)の有無

(一) 通則法二三条一項一号は、①納税申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと、②右①により、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があった場合には、当該更正後の税額)が過大であること、以上の二要件が認められる場合に更正の請求ができる旨規定している。

(二) 請求原因1の(三)の(1)、(2)の各事実及び本件更正が、本件土地持分につきそれが措置法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する減価償却資産に該当しないから、同項による課税の特例の適用がないとしていることは、当事者間に争いがないところ、原告は、本件土地持分が同項表一五号下欄イの減価償却資産に該当しないのであれば、本件申告には前記更正の請求の要件①を満たす事由があり、また、本件更正を受けた結果、同要件②を満たす事由があると主張している。

本件土地持分が減価償却資産ではなく、また、措置法六五条の七第一項表一五号下欄イの減価償却資産として扱うこともできないものであることは、後記第二の二の1の(二)の(3)で述べるとおりであるところ、原告が、本件申告において、本件土地持分につきそれが同項表一五号下欄イの減価償却資産に該当するとした上、同項による特定資産の買換えの場合等の課税の特例の適用を求めて、同項所定の圧縮記帳経理をし、その圧縮額一億三四二八万円を損金に算入して本件事業年度の法人税の課税標準及び税額を計算したものであることは当事者間に争いがないから、本件申告における納税申告書に記載した課税標準及び税額の計算は、国税に関する法律の規定に従っていないものであって前記更正の請求の要件①を満たす事由があることは、原告の主張のとおりである。

しかしながら、前記更正の請求の要件②は、同①の充足が理由となって税額が過大であること、つまり、同①の要件に係る法律の規定違反や計算の誤りそれ自体が、税額の過大をもたらすものであることを要求しているところ、右の法律の規定違反は、本来損金に算入することができない本件土地持分に係る圧縮額一億三四二八万円を損金に算入したというのであるから、税額を過少にする理由とはなれ、それが税額の過大をもたらすことはあり得ないのであって、前記更正の請求の要件②を欠くというほかはない。

もっとも、前記更正の請求の要件②は、当該納税申告書の提出により納付すべき税額に関し更正があった場合には当該更正後の税額が過大である場合としているが、これは、単に更正後の納付すべき税額が過大であればよいとしたものではなく、前記更正の請求の要件①の充足が理由となって税額が過大である場合、すなわち申告による納付すべき税額が申告の際の誤り等それ自体によって過大であった場合に更正がその過大な申告に係る税額を前提として他の更正要素による更正をした場合には、更正による税額の中に過大な申告に係る税額が含まれることになるから、なお更正の請求を許すこととしたまでであって、申告に係る税額がそもそも過大ではない場合には、更正の介在によって、前記更正の請求の要件②を満たすことになるはずはない。

さらに、原告は、前記更正の請求の要件②を満たすことになる理由として、本件申告後に本件圧縮記帳経理を本件特別勘定経理に修正し、右経理処理をした計算書類について本件臨時株主総会の承認決議を経たことを主張するが、仮に右のような計算書類の承認決議が存在し、それが税法上本件事業年度の決算として有効なものであるとしても、原告の主張によれば、それによる納付すべき税額は本件申告によるものと同額であるというのであるから、先に述べたところによれば、前記更正の請求の要件②を満たさないことは明らかである。

(三) 以上のとおり、本件更正請求は、原告の主張自体から通則法二三条一項一号に基づく更正の請求の要件を満たさないものである。

3  信義則違反の違法の有無について

(一) <証拠>によれば、以下の事実が認められる。

(1) 原告代表者は、本件申告に先立ち、昭和六一年五月二八日ころ、本件譲渡資産の譲渡利益に関し措置法に規定する特定の資産の買換えの場合等の課税の特例の適用を受けるについて、浅草税務署へ税務相談に行き(以下「本件税務相談」という。)、熊谷調査官らがこれに応対した(ただし、原告代表者が同日ころ浅草税務署に税務相談に行き、熊谷調査官らが応対したことは、当事者間に争いがない。)。

(2) 原告代表者は、特定の資産の買換えの場合等の課税の特例を受ける場合に納税申告書に添付する「特定の資産の買換えにより取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書」と題する法人税法施行規則別表一三(五)の書式の用紙に本件譲渡資産及び本件買換資産につき該当する数値等を記入したもの(本件資料)並びに本件譲渡資産及び本件買換資産の売買代金等をメモした書面を持参し、これを熊谷調査官らに提示して、本件買換資産の圧縮額を決めるための按分計算の適否及び本件資料の記載事項の適否の検討を求めた。

(3) 特定の資産の買換えの場合等の課税の特例の適用対象となる譲渡資産及び買換資産としては、措置法六五条の七第一項の表の一号から一七号に規定されているものに限られるが、買換資産については、本件で問題となっている同表の一五号下欄イの場合には減価償却資産とされているけれども、他の各号の場合には必ずしもそうではなく、土地等とされている場合もあるところ、法人税法施行規則別表一三(五)の書式の用紙には、表題に下に措置法六五条の七第一項の表のいずれの号に該当する場合であるかを記入する欄が設けられ、その下に、譲渡資産の明細、差益割合、取得資産の明細、帳簿価額の減額等をした場合の当該価額の計算の明細、対価の額の残額の計算の明細及び特別勘定に経理した場合の明細の六つの大項目の欄につき合計四〇の記載事項欄が設けられている。原告代表者が熊谷調査官らに提示した本件資料には、同表の何号に該当する場合であるかの記入はなく、また、それ以外の記載欄については、譲渡資産の明細に係る欄のうち、譲渡資産の種類、譲渡した土地等の面積、対価の額、帳簿価額、譲渡に要した経費及び帳簿価額と譲渡に要した経費の合計の各欄、差益割合に係る欄の全部、取得資産に係る欄のうち、取得した買換資産の種類、買換資産の取得価額、取得した土地等の面積及び取得価額の各欄、帳簿価額の減額等をした場合の明細に係る欄のうち、買換資産の帳簿価額を減額し若しくは引当金又は積立金に経理した金額、買換資産の取得のため対価の額の計又は対価の額の計のうち特別勘定残額に対応するものから支出した金額及び圧縮基礎取得価額の各欄について、それぞれ数値等が記入されていただけで、同表一五号に該当するものとして課税の特例の適用を求めていることを推知させるような譲渡資産及び買換資産の所在地については何も記載がなく、本件資料と併せて提示されたメモにも、右各資産の所在地を示す記載はなかった。また、原告代表者からも、本件資料及び右メモに記載してあった事項以外の本件譲渡資産及び本件買換資産の各売買に関する事項について説明はなかった。

(4) 熊谷調査官は、原告代表者から提示を受けた本件資料及びメモを基に、本件資料に記載されていた買換資産の圧縮額を算定するにつき行う建物と土地持分の取得価額の按分の内容について検討した結果、土地と建物に区分して記載していた譲渡資産の明細に係る欄の記載部分を、原告に有利になるように一括記載に訂正し、買換資産の圧縮額の算定に係る記載部分を、原告は建物の取得価額を先決して土地持分と建物の取得価額を按分し、それぞれの圧縮額を算出する方法をとっていたが、土地持分の取得価額を先決する方法による計算の方が合理的であると考えたことから、その方法による按分額に訂正した。熊谷調査官は、右の検討を終えた後、訂正記入後の本件資料の内容を法人税第一部門に所属する岩楯上席調査官に確認してもらった上で、原告代表者に本件資料を返戻して、本件税務相談を終了したが、本件税務相談に要した時間は全体で三〇分程度であった。

以上の事実が認められ、<証拠判断略>他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右認定によれば、原告代表者は、本件税務相談において、本件譲渡資産及び本件買換資産を特定して、措置法六五条の七第一項の表一五号に該当するものとして課税の特例を受けることができるかどうかについて相談したものではなく、同項による課税の特例を受けることができることを当然の前提とした上で、本件資料に記載した買換資産の取得価額の按分の仕方と、その計算の適否を質問したものであったが、熊谷調査官らにおいても、本件資料等や原告代表者の説明からは、右の前提が誤っていることがわかる状況にはなく、それゆえ、右質問に係る事項に対してのみに答えたものであり、その応答内容は右質問に対するものとしては、不適切あるいは誤っているところはないということができる。

(三)  原告は、税務署職員が行う税務相談は納税者に対する関係で事務管理となるところ、本件税務相談において、買換資産が墨田区に所在するものであることが明らかにされていたのであるから、熊谷調査官らは、買換資産のうち土地持分につき措置法六五条の七第一項の適用がないことを指摘すべきであったのに、この点の指摘をしなかったばかりか、買換資産の全部につき同項の適用がある旨の誤った回答をしたと主張する。

事務管理とは、法律上の義務なくして他人のためにその事務を処理する行為をいい、これについて私法の分野に限らず、公法の分野においても認める見解があるが、右のとおり事務管理とは、管理者が法律上の義務もなく、また、被管理者からの委託等も受けないで被管理者の事務を処理する行為をいうところ、税務相談は納税者から依頼を受けて行われるものであり、また、相談に応じることが納税者の事務を処理することになるとはいい難いことからすると、税務署職員が税務相談に応じることが納税者に対する関係で事務管理になるとはいえない。しかしながら、いわゆる行政サービスの一環として、また、申告納税制度を適正なものにするための補完機能として、税務署職員が税務相談事務に従事していることは公知の事実であり、右事務は税務担当職員の職務行為の一つと考えられるものであるから、公正かつ適正に処理すべき義務があるものと解するのが相当である。ところで、税務相談事務はあくまで相談に応じるという行為であるから、税務調査とは異なり、原則として相談者から提示された事実関係に基づき相談事項を検討すれば足りるものというべきである。

そこで本件について見るに、右(一)の認定事実によれば、原告代表者から相談された事項は、同人が持参してきた本件資料に記載されていた買換資産の取得価額の按分の適否及び圧縮額の計算の適否だけであって、本件買換資産についての措置法六五条の七第一項の適用については相談事項ではなく、その当然の前提とされていたものであり、右相談事項の検討に当たり原告代表者から提示された本件資料及びメモには買換資産の所在地を示すものはなく、それについて同項の適用対象資産でないとの疑問を抱かせるような事実関係は現れなかったのであるから、熊谷調査官らが土地持分につき同項の適用がないことを指摘しなかったからといって、それが税務相談事務上要求される職務義務に反したものとはいえない。

したがって、原告の右主張は失当である。

(四)  その他、熊谷調査官らが本件税務相談において原告が主張する誤った教示をしたことを認めるに足りる証拠はなく、誤った教示を前提とする信義則違反の主張は、その前提を欠き、採用できない。

4  以上によれば、本件更正請求は理由がないので、本件通知処分は適法であるということができる。

第二本件更正等処分の取消請求

一請求原因2の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二本件更正等処分の適法性について

1  本件事業年度の所得金額

(一) 被告の主張2の(一)の(1)、(3)の各事実は、当事者間に争いがない。

(二) 加算項目

(1) 被告の主張2の(一)の(2)のア、イの各事実は、当事者間に争いがない。

右争いのない事実によれば、原告は本件申告において本件土地持分を措置法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する減価償却資産に該当するとして、本件建物とともに本件圧縮記帳経理をして、その圧縮額(本件建物に係る圧縮額は九二五二万円、本件土地持分に係る圧縮額は一億三四二八万円)を本件事業年度の損金に算入しているのであるが、本件土地持分は減価償却資産に該当しないことは後記(3)に述べるとおりであり、したがって、本件土地持分は同項の適用対象となる買換資産に当たらないから、これに係る圧縮額一億三四二八万円を本件事業年度の損金に算入することはできないので、右金額は所得金額に加算されなければならない。

(2) 原告は、本件更正において右圧縮額の損金算入を否認するに当たり、本件建物の敷地のうちの具体的な一部分を「土地部分」として買換資産であると認定した事実誤認の違法があると主張する。

本件買換資産に関する部分の本件更正の理由が原告の反論2の(一)のとおりであることは当事者間に争いがないところ、本件更正は本件申告に対するものであって、右理由部分は本件圧縮記帳経理をした本件買換資産に関するものであることは明らかであるから、右理由中で使用している「土地部分」が本件土地持分を指していることは疑いの余地がなく、原告の右主張は採用できない。

(3) また、原告は、本件買換資産は区分所有法の適用を受けるものであり、本件建物は同法でいう専有部分に、本件土地持分は同法でいう専有部分を所有するための敷地利用権に当たるところ、同法によれば右敷地利用権は専有部分と不可分一体をなすものであり、通常の土地共有持分と異なる性質を有するものであるから、税法の適用上、専有部分と一体をなす資産であると解すべきであり、本件土地持分は本件建物と一体をなす措置法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する減価償却資産として扱われるべきものであると主張する。

本件土地持分は本件建物の敷地の共有持分であるところ、原告も、一般論としては、土地の共有持分が減価償却資産であることを否定するものではなく、ただ区分所有法でいう専有部分を所有するための敷地利用権である本件土地持分は、措置法の右規定の関係では、専有部分たる本件建物と一体として減価償却資産扱いをすべきであるというのである。

<証拠>によれば、本件土地持分は、区分所有法でいう専有部分(以下「区分所有建物」という。)である本件建物を所有するための敷地利用権に当たるもののであるが、同法二二条一項本文は、「敷地利用権が数人で所有する所者権その他の権利である場合には、区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権を分離して処分することができない。」と規定し、区分所有建物とその敷地利用権の分離処分の禁止を定める。右規定は、本来土地と建物が別個独立の不動産とされ、その処分も個々に行い得るものであるという原則に対し、区分所有建物を所有するための敷地利用に関する複雑な権利関係の発生を防ぎ、区分所有建物の存続を全うさせる目的から昭和五八年法律五一号による改正により新設された規定であり、区分所有建物と敷地利用権の処分上の不可分性を定めたものである。しかし、同項ただし書は、「ただし、規約に別段の定めがあるときは、この限りでない。」と規定し、また、区分所有法附則八条に該当する場合にも分離処分ができる旨の規約が定められていたものとみなされるように、右処分上の不可分性は絶対的なものではなく、区分所有建物とその敷地利用権である敷地所有権(共有持分)とを別個の不動産として扱う原則を変えるものではなく、右の分離処分禁止規定が区分所有建物とその敷地利用権とを実体上あるいは性質上も不可分一体化する旨規定していたものと解することは到底できず、したがって、右規定は、区分所有建物とその敷地利用権とを実体上あるいは性質上も不可分一体的に扱うべきであるとする根拠規定になり得ない。不動産登記法九三条の二以下の区分所有建物に関する登記手続を定める各規定についても、処分上の不可分性がある区分所有建物とその敷地利用権について公示上もその不可分性を明らかにし、また、改正前における区分所有建物とその敷地利用権に関する膨大複雑な登記簿の簡明化を図るために、右区分所有法の改正と同時に改正された規定であるので、区分所有建物とその敷地利用権の実体上あるいは性質上の不可分一体性を認める根拠になり得ない。

その他、本件土地持分を税法上減価償却資産として扱うべきであるとする理由は見いだせず、原告の右主張は採用できない。

(4) さらに、原告は、本件土地持分が措置法六五条の七第一項表一五号下欄イに規定する減価償却資産に該当せず、本件土地持分に係る圧縮額を損金に算入することができないのであれば、本件申告は、確定した決算に基づかないものであることにより、あるいは錯誤があることにより無効であり、無効な本件申告によっては本件事業年度の法人税に関する法律関係は生じていないから、存在しない右法律関係に対してした本件更正等処分も無効であると主張する。

弁論の全趣旨によれば、原告は、本件更正がされる前に、本件事業年度の法人税につき本件申告以外の申告をしていないことが認められる。そうすると、仮に本件申告が無効で、存在しないものと扱われるとすると、原告は、本件更正当時、本件事業年度の法人税につき無申告であったことになり、この場合における課税標準及び税額を確定するための処分は通則法二五条に規定する決定によるべきことになる。しかし、過少申告といい無申告といい、ともに申告義務に違反する状態にあるものであって、それぞれについて賦課される加算税もその本質においては変わりがないものと認められるものであり、また、通則法六五条、六六条によれば、無申告加算税の方が過少申告加算税よりも多額であることは明らかであるから、無申告で決定をすべき場合に誤って過少申告として更正をしたとしても、そのこと自体により納税者が不利益を受けることはあり得ないものといってよい。したがって、本件更正の違法事由としての本件申告の無効は、原告の法律上の利益に関係のない違法事由であるから、これに基づき本件更正等処分の取消しをすることはできない。

よって、原告の右主張は失当である。

(5) 最後に、原告は、本件申告は本件土地持分につき措置法六五条の七第一項の適用があるとの被告の教示に基づいて行ったものであるところ、右教示に係る本件土地持分の圧縮額の損金算入を否認して本件更正をすることは信義則に反する違法があると主張する。

しかし、前記第一の二の3で述べたとおり、本件申告に関して被告が本件土地持分につき措置法六五条の七第一項の適用がある旨の教示をした事実を認めることはできないから、右主張はその前提を欠き、採用できない。

(三) 以上によれば、本件事業年度の所得金額は一億一九八八万四三七六円となる。

2  本件事業年度の課税土地譲渡利益金額

本件事業年度の課税土地譲渡利益金額が三七五八万八〇〇〇円であることは、当事者間に争いがない。

3  本件事業年度に係る課税留保金額

本件事業年度の所得金額が一億一九八八万四三七六円、本件事業年度の課税土地譲渡利益金額が三七五八万八〇〇〇円である場合の本件事業年度に係る課税留保金額が七九三万円となることは、当事者間に争いがないところ、右1、2のとおり本件事業年度の所得金額及び課税土地譲渡利益金額はそれぞれ右各金額と同額であるから、本件事業年度に係る課税留保金額は七九三万円となる。

4  本件更正の適法性

本件事業年度の所得金額が一億一九八八万四三七六円、本件事業年度の課税土地譲渡利益金額が三七五八万八〇〇〇円、本件事業年度に係る課税留保金額が七九三万円である場合の右各金額に基づく本件事業年度の差引所得に対する法人税の額が五五六二万四九〇〇円となることは、当事者間に争いがないところ、右1ないし3のとおり本件事業年度の所得金額、課税土地譲渡利益金額及び課税留保金額はそれぞれ右各金額と同額であるから、本件事業年度の法人税の額は五五六二万四九〇〇円となり、これと同額の本件更正は適法である。

5  本件賦課決定の適法性

原告の本件事業年度の法人税額は右4のとおり五五六二万四九〇〇円であるから、原告は本件申告において税額を過少に申告したことになるところ、本件事業年度の法人税の額が五五六二万四九〇〇円である場合の過少申告加算税の額が四三八万二五〇〇円となることは当事者間に争いがないので、右過少申告に対する過少申告加算税の額は四三八万二五〇〇円となるから、これと同額の本件賦課決定は適法である。

第三よって、原告の本件請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官佐藤道明 裁判官青野洋士)

別紙

課税処分経緯表

(単位 円)

番号

区分

年月日

所得金額

課税土地

譲渡利益金額

差引所得に

対する法人税額

過少申告

加算税額

1

確定申告

61.5.31

五、二九七、

二二三

四三、一四五、

〇〇〇

六、六五九、

六〇〇

2

更正賦課決定

61.12.26

一三九、五七七、

二二三

三七、五八八、

〇〇〇

六四、四〇二、

八〇〇

五、二六〇、

五〇〇

3

更正の請求

62.1.7

五、二九七、

二二三

四三、一四五、

〇〇〇

六、六五九、

六〇〇

4

2に対する異議申立

62.2.17

五、二九七、

二二三

四三、一四五、

〇〇〇

六、六五九、

六〇〇

5

3に対する通知

62.5.18

更正をすべき理由がない旨の通知

6

4に対する異議決定

62.5.18

棄却

7

2に対する審査請求

62.6.12

五、二九七、

二二三

四三、一四五、

〇〇〇

六、六五九、

六〇〇

8

5に対する審査請求

62.6.12

五、二九七、

二二三

四三、一四五、

〇〇〇

六、六五九、

六〇〇

9

減額再更正賦課決定

62.12.26

一一九、八八四、

三七六

三七、五八八、

〇〇〇

五五、六二四、

九〇〇

四、三八二、

五〇〇

別紙

法人税額算出表

区分

(単位 円)

1

所得金額

119,884,376

2

同上に対する法人税額

50,925,772

3

課税土地譲渡利益金額

37,588,000

4

同上に対する税額

7,517,600

5

課税留保金額

7,930,000

6

同上に対する税額

793,000

7

法人税額計(2+4+6)

59,236,372

8

控除所得税額

3,611,398

9

差引所得に対する法人税額

(7-8及び100円未満切り捨て)

55,624,900

別紙物件目録<省略>

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